第35回 全国子どもとことば研究集会
【講演3】
8月21日(日)15:15〜16:45

「ことばにこだわることの意味」

東京大学名誉教授
汐見 稔幸(しおみ としゆき)


概要

 単語と使える言葉が多い人ほど偉くなる? 単語と学力は確かに比例しているが、社会で必要とされる人間力や組織力は学校で学ぶ知識とは比例していない。ある調べでは良い仕事をしている人に必要な力は、組織をまとめる力、分析力、人をやる気にさせる力などが並び8番目に学校の学力が入ってくる。学力は必ずしも1番ではない。良い仕事をしているのは非認知能力の高い人たち。情動コントロールの高い人。学校の学力とは比例しない。非認知能力をつける学習に世界はシフトしていっている。

 ホモ・サピエンスがこんなに繁栄したのはなぜか。獲物を独り占めせず、必ず分け合った。危険を教え合った。協働する力が強かった。そして、そのためにことばが必要になったのではないかといわれている。もちろんそのほかにも諸説ある。ルソーは「好きな女性に好きというため」と言っている。そうかもしれない。

 「犬を思い浮かべて」と言ったら100人が「犬」を思い浮かべることができるが、100通りの犬で同じ犬はいないだろう。言葉とはそういう曖昧さを持っていて、相手が伝えたいと思ったことを違うように受け取ることはしょっちゅうある。難しい言葉を知っているかどうかではなく、伝わるにはどうしたらいいかが問題。そこで比喩を使う。比喩の力を育ててあげることが大切。「ごっこ遊び」は比喩力を育てるチャンス。「○○みたい」が大切。ことばは内面にある形のないものに形をつける便利なツール。

 現代はことばにあふれている。実は近年生まれたことばは沢山ある。その中には眼くらましの言葉も沢山ある。戦争=殺し合い。不登校は昔は登校拒否。不はマイナスのイメージのことばで感性が豊かでみんなからちょっとずれている子には合わない。子どもたちは学校で学ぶ権利がある以上、国がフリースクールを作らないといけない。競争は差別化を生む。ことばは勝ち負けではない。相手に打ち勝つためのものではなく真理を追究するためのもの。こどもの気持ちをちゃんと汲んで考えていく。専門家の言葉ではなく「発達」は「育ち」、「生活」は「くらし」でよい。みんなにわかることばで伝え合う。

 これからは「ツイッターなどで短文は書けるが長文は書けない」とか、「動画じゃないとわからない。」「授業はVRで仮想体験。教科書・文字なんかでよく勉強できたね」の時代が来るかもしれない。その中では人と人を結びつけることにこだわる。「こう言ったら相手はどう思うか」相手をくぐることばが大切で自分と違う人になった思いで話す。日本の人口が減り、外国人労働者が増える中、貧困や差別が広がってはいけない。「人間として皆同じ、感情は一緒だよね」とならなくては。言葉は音楽でもある。小さいときにいっぱい聞かせて音源にしてほしい。言葉で喜び共感しあう、乳児期の言葉体験が大切。こどもたちに豊かな言葉体験を。

<参加者の感想から>

普段使う言葉をじっくり考えてみようと思った。

言葉に対してあまり考えたことがなかった。意味を考えながら使っていきたい。

「言葉の奥深さを感じた」「言葉を丁寧に使っていきたい。」「言葉を上手に使える人になりたいと思った」「誠実な言葉を使っていきたい。」

比喩で表現することがとても大切、ごっこ遊びが大切ということが印象的だった。

「○○みたい」を大切にしていきたい。


講師プロフィール

1947年、大阪府生まれ。東京大学名誉教授、白梅学園大学名誉学長。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。臨床・育児研究会代表。同会発行の保育者による本音の交流雑誌『エデュカーレ』の編集長も務め、学び合う保育の公共の場の創出に力を入れている。日本保育学会理事(前会長)、全国保育士養成協議会会長、家族・保育デザイン研究所代表理事、保育者のためのエコカレッジ「ぐうたら村」村長。