第35回 全国子どもとことば研究集会
【講演1】
8月21日(日)10:10〜12:00

「『あそび・遊び』はこどもの主食」

早稲田大学名誉教授
増山 均(ましやま ひとし)


概要

 今日の子どもたちは遊ばされているのではないか? 子どもたちが本当に遊ぶとは一体どういうことなのか? 増山氏は「子ども期」の貧困化や、子どもの「あそび・遊び」の喪失について、日本社会の変容や子どもの権利について交えながら講義されました。

 子どもたちにとって「名前のある遊び(遊び)」だけが子どもの遊びではありません。
 「名もない遊び(あそび)」こそ大切なのです。
 そして子どもたちを観察してみると、遊びよりもあそびの方が多いことに気付きます。
 あそびの中でたくさんの発見を積み重ね、それが遊びへと繋がっていくのです。

 子どもの権利条約を「あそび・遊び」という切り口から見てみると、「あそび」についてより理解が深まります。
 特に31条の余暇についての考え方が重要であり、例えば、趣味やスポーツを楽しむことは「遊び」として認められている一方で、ただブラブラしていたり、ぼーっとしていたりする「あそび」は認められない傾向にあります。
 しかし、こののんびりしたり、ブラブラしたりする時間を「あそび」と捉える視点が大切です。
 その中で生み出される「想像力」に注目すべきであり、一見むだに見える時間を重ねることで、生活の厚みや深みなど、そういったものが育ってくると考えられています。
 しかし、日本の現状を見ると、大人たちにそのゆとりの時間がないため、子どもたちにその権利を受容することができないのです。
 だからこそ、大人側の長時間労働によるゆとりを持てない現状は、真っ先に解決するべき問題ではないのでしょうか。

 この講演は私たち保育士にとって耳の痛い内容でもありました。 フラフラしている子に対して「何か集中して遊べるものを探してあげないと」などと、ついあれこれ遊びに誘ってしまっていた方も多いのではないでしょうか。
 私たちにとっては遊びではないと感じたとしても、それは子どもにとってあそびであり、非常に大切なことであるようです。
 今一度、子どもたちにとって遊びとは何なのかを考えるきっかけとなりました。

<参加者の感想から>

名前のある遊び、名前のない遊びには特に考えさせられました。名前のない遊びを楽しむ時間がどのくらいあるか、やや反省です。 ゆとりのある保育を心がけたいです。「ゆっくりしてもいいんだよ」という内容に心が救われた気がします。

子どもの権利条約、特に31条と繋げて子どもの「あそび」「遊び」を考えてみたのが私にとっては新しい見方でした。「あそび」と「遊び」の違いが分かりやすかったです。子どもの権利条約と実際の保育とを繋げて考えていきたいです。

保育を勉強する中で感じていた違和感はまさしくこれだと思いました。保育園での設定保育は、子どもにとって「遊ばされる」になっていたかもしれません。子どもの「あそび」を認め、大切にしてあげたいと思います。今後の自分の保育にたくさんの変化がありそうです。


講師プロフィール

1948年、栃木県宇都宮市生まれ。日本福祉大学社会福祉学部教授、早稲田大学文学学術院教授を経て、現在早稲田大学名誉教授。専門は、社会教育学、社会福祉学。子育て問題、教育・福祉問題、子どもの人権と文化問題など、総合的視点から「子ども研究」を進めている。日本学童保育学会代表理事、子どもの権利条約市民・NGOの会共同代表、日本子どもを守る会会長。