第35回 全国子どもとことば研究集会
【分科会】
8月21日(日)13:00〜16:30

「絵本をたのしむ」

講 師:澤口 たまみ(絵本作家・エッセイスト)
世話人市川 美代子(科学読物研究会・児童図書館研究会会員)
世話人:
齋藤 和子(保育者)


概要

 参加者11名。
 こんなに虫のこと、自然のこと、宮澤賢治についても、お聞きするのは初めてという分科会となりました。ひとりひとりの参加者と対話しながら、話を膨らませて、最初から最後まで、澤口たまみさんは生き生きとお話してくださいました。  
  澤口 たまみさんが、これまでの人生を振り返って、ご自身が大切にしていること、どのようにして作品が生まれたのか、作品を通して伝えたいことを語ってくださいました。澤口たまみさんの生き方、感じ方、人生観がしみじみと伝わって、参加者ひとりひとりの心に響き、残る言葉となりました。


〜澤口たまみさんのお話から〜

ことばを獲得する前に、その子の感性が育まれているかどうかが重要です。この世に好きなものがたくさんあった方がよい。その中の一つに自然や虫があってほしい。なぜそのように思うようになったかというと、自分が育ってくるうえで虫に助けられたからです。

自然界の生きものたちと心を通わせること、自然界の中で遊んだという思い出は、かけがえのないもので、その人の一生を支えるものとなる。嫌なことがあっても、大人になった今でも、自然界の生きものに「がんばれよ」と言われたように感じるのです。

子どもたちにとって、この世のガイドブックと思って、科学絵本を創っている。「この世にようこそ、この世は生きていくのに十分素敵なところです。死なないで生きてください。」と伝えたいと思って創っている。

23歳で博物館展示解説員の仕事についたとき、虫って嫌われていることをはじめて知った。私が代弁してあげなくてはと思った。でも子どもにわかるように話すのは難しい。絵本のことばを獲得するのに時間がかかった。そこでエッセイとして表現して、岩手日報に投稿するようになる。それらをまとめてエッセイ集1989年刊で1990年、 『虫のつぶやき聞こえたよ』(白水社)で、日本エッセイストクラブ賞を受賞しました。

「ようこそ ぼくのてのひらへ」について  
  幼稚園の子どもたちと一緒に野原を歩きながら、「虫と親しむ、虫と付き合うということは、どういうことか」を伝えたいと思ってつくった本です。虫かごを持たずに、おわんの形で、素手で虫に触れ合うことをやっていると、子どもがやさしい気持ちになる。それを虫がキャッチして、ずっと手のひらにのっていてくれるようなことがある。子どもたちにこの世には私たちと違う命が暮らしているということを感じてもらっている。小さないのちとそれを育む自然界と子どもたちと触れ合うことが大事と思っています。

科学絵本
 この世にこんな自然があります。こんな体験が待っています。描かれた中身を実際に体験して、それから子どもたちに読み聞かせしてほしい。読み手自身がある程度体験して、読んであげてほしい。読み手自身のことばで、自然をみてください。科学絵本を読むときは、子どもたちとやり取りできることです。

宮澤賢治
 岩手の自然を文章にした詩人。自然のことばを伝えていて、自然界の人間のことばにならないお話を人間のことばに変えてくれたのが宮澤賢治です。宮澤賢治のことばは翻訳することも、絵本にすることも不可と考えています。絵本にする場合は、あくまでも対象年齢、何歳ぐらいの子どもを対象に、その作品をこの意味で絵本にしますと、出版社から伝えることです。

 

<参加者の感想から>

澤口先生の本当の人生観をうけとめました。生き物に対する愛の深さを感じ、すきになりました。すべて読んでみようと思いました。人間もいきものも同じ深さを感じます。子どものための作者でいてください。ありがとうございました。

虫や自然に触れることの大切さを改めて感じました。今まで疑問に思っていたことにも答えていただき、子どもたちにどのように伝えていけば良いか知ることができました。虫について今までしっかり話を聞く機会がなかったので様々なことを対話しながら聞けて嬉しいです。

特に虫についての話が印象的でした。私自身、虫や鳥が苦手で、子どもと関わる時、たまに大声をあげています。(だんご虫やアリは大丈夫ですが)虫に触る時“怖い”と思って、がんばって触ろうとしているので、“やさしい気持ち”で関わってみようと思いました。

明日から虫の心に寄り添った言葉を発する自分になります。澤口先生の講義に魅了されました。参加できてよかったです。「Kenji」の話は 深かったです。

本当に楽しく深いおはなしがきけました。宮澤賢治のおはなしを身ぶるいしながらききました。


講師プロフィール

1960年、岩手県盛岡市生まれ。岩手大学農学部卒業。応用昆虫学を専攻。岩手県立博物館展示解説員として勤務後、岩手大学農学部修士課程に入学。1985年頃から自然や生きものをテーマにした文章を書いたり、子どもを対象とした自然観察会を開いたりするようになる。1990年、初めてのエッセイ集『虫のつぶやき聞こえたよ』(白水社)で、第38回日本エッセイストクラブ賞受賞。1995年、『何てったって、虫が好き!』(イラスト・あべ弘士、大日本図書)。主に福音館書店の月刊誌「ちいさなかがくのとも」「かがくのとも」で、絵本のテキストを数多く手がける。宮澤賢治の後輩として、その作品を親しみやすく紹介したり、宮澤賢治の自然の言葉を読み解くことを続けている。2021年、『クラムボンはかぷかぷわらったよー宮澤賢治おはなし30選ー』(岩手日報社)で「クラムボン」の謎に迫る。岩手県紫波町在住。