「ことばが育てる生きものとしての子ども」
JT生命誌研究館名誉館長
中村 桂子(なかむら けいこ)
概要
「人間は生き物であるということを忘れて生きているのではないか? まず人間であることを思い出して。私たちは生き物です。」と静かな語り口調の中に強い思いを乗せた、あっという間の1時間30分でした。
私たち生き物はどんな生き物でも38億年前に発祥し同じ時間を積み上げて現在に至っている。人間も動物に魚も昆虫もみんな一緒。同じ発祥から徐々に枝分かれして今がある。上の下もない。みんな同じところに立っている。
大切な生き物も殺さずには生きて行かれない。今日も皆、食事をしたと思うが、それは命を頂くこと。これはどうしょうもない現実。でもどんな命も大切にしてあげてほしい。小さな虫もつぶしすぎないで。「なら、蚊をつぶすのはどうなのか?」ということがよく言われるが○か×ではない。いい加減に過ごさないでねということ。
「自然を何とかしてあげる」ではなく、人間もその中にいてその立ち位置から物事を考える。上から目線の「あげる」ではない。地球にやさしくされて私たちもその中で生きる。こどももその中で生きてほしい。自然の中に子どもがいるという中で生きてほしい。そして、自分の気持ちを自分のことばで大人にきちっと語ることで、人とのつながり他の生き物とのつながりを語ってほしい。
AIと人間を比べるものではないが、どっちが上かということではない。機械はすべてがわかっていて作った通りに作動しなくては困るもの。生き物は38億年かけて考えなくてはできないもの。時間を紡ぐもの。次へとつないでいくもの。ことばが紡いでいくもの。そして語ることは大切だが、もっと大切なことは聞くこと。
機械は時間を短縮したり、人の手を抜くために便利なものだし、人の思うとおりに動かないと困るもの。
人間には飛ばすことに意味はない。1歳には1歳の、3歳には3歳の意味があり、それぞれ大切にされなくてはいけない。
思いがけないことは機械にはあってはならないこと。子どもには楽しみなこと。機械はバージョンアップで古いものを捨てていくが、生き物は38億年積み上げたもの。子どもを育てるのに時間をかける、手をかける。思いがけないことがあるのは当たり前。
多くの学びがありましたが、まずは自然に生かされ、自然の中の生き物である自分を意識して時間と手をかけ、思いがけないことを楽しみながら子どもたちと過ごしていきたいなと強く思いました。
(世話人 佐藤有美子)
参加者の感想から
●人間を生きものとして考える。壮大な価値観に出会うことができて、自分とは…と考え直しました。
●子どもの発信力に驚きました。乳幼児からの言葉の育み、聞くことを大切にしたいと思いました。
●中村先生のご講義について印象に残ったのは機械と生き物についてのお話でした。機械のように早く、手が抜ける、思い通りにできるのは生き物にはできない。飛ばすことなく、手をかけて育てていく、その手がかかることを楽しむことが大切というお話は納得できました。その子らしく生きることを認めていけるような保育をしていきたいと思います。
講師プロフィール
東京大学理学部化学科卒業、東京大学大学院生物化学専攻博士課程修了(理学博士)。国立予防衛生研究所、三菱化成生命科学研究所人間自然研究部長、早稲田大学人間科学部教授、JT生命誌研究館館長を経て現在名誉館長。東京大学先端科学技術研究センター客員教授、
大阪大学連携大学院教授も歴任。