概要
メディア社会になり、家庭における親子の対話が激減していることが、今日の子どもたちの思考力、コミュニケーション力の低下の要因になっています。「人間の思考は、幼児と両親の間で交わされる対話の相互作用の中から生まれる」とヴィゴツキーも述べていますが、「対話や会話は人との共同的思考」(岡本夏木)です。園において、これらを活発にしていくため、保育者はどう子どもたちと関わり、対話や会話の喜びを実感させていったらよいのでしょう? そのことについて私の保育実践、失敗談などを交え、述べてみました。
皆様方からのご感想は、「子どもたちの生き生きした、けなげなことばや対話が、心の芯に響き、泣いたり笑ったり、感動の多い時を過ごすことができました」「早く園に戻って子どもたちと向き合い、話をしたくなりました」「子どもの成長発達のことばから受け取る心の内がとてもよく理解できました」など力強いメッセージをいただきました。
お互いが人格を認め合い、対等な立場で話すこと、異なる価値観をすり合わせる意見の交換によって、新しい考えを生み出していくことを可能にする対話や会話こそ、民主主義社会における平和の礎。どの子どもたちにも対話や会話の喜びを実感させる保育を築いていってほしいと思っています。
(今井和子)
参加者の感想から
●1歳児クラスの担任をしている2年目の保育士です。今、ちょうどイヤイヤ期、ものの取り合いが多い時期で、子どもとの関わり方について悩むことがあります。毎日子どもの葛藤に向き合う日々に疲れていたのですが、今井先生の「この困難な時期を大人の適切な援助によってどのように切り抜けられるかが、その子の一生の適応を決める」という言葉を聞いて、ハッとさせられました。今私がこの子にどう向き合うかが、この子の一生の人生に関係するんだと思うと、どんなに大変でも決して気を抜かず、まっすぐ向き合うべきなのだと思いました。これからも一生懸命がんばります。
●「言葉をかけることは心をかけること」「対話を大事にする」わかりやすい保育のスタンスが見つかりました。
●会話や対話の大切さ、0才からの子どもの育ちを、具体的に例をたくさんあげてくださり、興味深く聞くことが出来ました。私たち保育者の感性、聴く力、語彙の豊かさなど日々みがくことが大切であり、身が引き締まる思いです。
講師プロフィール
20数年間、公立保育園で保育士として働き、「子どもとことば」「自我の育ち」「遊びこそ豊かな学び」を柱とした実践研究を積み重ねる。保育園を退職後お茶の水女子大学非常勤講師を経て、大学にて20数年間保育者養成にあたる。