第32回 全国子どもとことば研究集会
【小講演とグループ討議】
19日(日)9:30〜16:00

「遊びのもつ根源的な力を子どもたちに」

講師/天野 秀昭
  (NPO法人日本冒険遊び場づくり協会理事(30年4月現在)・プレーパーク界の父

司会・進行/今井 和子(子どもとことば研究会代表)

世話人/ 大内 勇樹 ・ 久津摩 英子 ・ 佐藤 有美子 ・ 吉田 恵美子


概要

 1980年日本で初めて世田谷区羽根木に常設の冒険遊び場が設立され、そこで初のプレーリーダーとなった天野氏を迎え、冒険遊び場で繰り広げられる子どもたちの「遊び」を通して「遊びの定義」について講義された。

 人間の生きる四大柱「食う・寝る・出す(排泄)・遊ぶ」の中で、遊ぶことこそが人間の心の発達に欠かせない要素であるにもかかわらず、近年この「遊び」が大人たちに誤解され、ないがしろにされることに危機感を感じている。
 遊びを通して子どもは自分で自分を育てようとする、これを天野氏は遊育といっている。また「遊び」とはその子の「やってみたい」「やりたい」という動機が遊びの本質である。 
  教育とは、大人が教え育てようとするもの。遊育とは、子ども自身が遊び育とうとするもの。自分にとって意味があって価値があることをやっているので、遊びという手段を通して自分の世界を深めていくことが出来るのである。教育と遊育を比べてみると、誰が主体となっていて何が育つのか違いが見えてくる。教育の主体は大人であり育つものは能力、遊育の主体は子どもであり育つものは脳力である。能力を高めようとして行う教育は、子どもの「やってみたい」「やりたい」という心の動きを奪っている危険性があるということを知ってほしい。そして、教育する大人が遊育することの価値をわかっていれば、教育の場においても遊育を活かすことが出来るのである。

 「遊び」という定義を改めて考え、保育の場で誰が主体の遊びであったか振り返る時間となった。また、園庭が無い保育園が多い現状の中で子どもたちの遊びをどのようにして保障し工夫していけばよいのか、今後の課題点も見えた講演であった。

 グループ討議は、今井先生より「現代の子ども達のからだが危ない」という視点から下記の問題提起があり、グループ討議へと進んだ。

 平成24年3月、文部科学省より「幼児期運動指針」で一日60分以上体を動かして遊ぶことが定められており、その体を動かす内容については、多様な動きを取り入れ、そして楽しく体を動かさないと意味がないこと、また3歳未満児の体を動かすことの重要性を理解したうえで、園でどのようにして体を動かす遊びを取り入れていくかが求められている。
 また一方では、体を動かして夢中になって遊ぶことでリスクへの挑戦が生まれ、それを乗り越えていく力が育つというのに、その意味を理解していない大人側が、危ないから、または怪我をした時の保護者への責任問題等から、止めてしまうことで育ちを奪ってしまっている。
  保育指針にも述べられているように、養護とは命を守り育てることであり、その点を十分理解した上で、保護者と共に怪我について「どこからどこまでを怪我とするのか」話し合うことが大切になってきており、具体的には、園における子どもの育ちと、事故・怪我の許容範囲を保護者に伝え、伝えた後も保護者と話を続けていく「リスク・コミュニケーション」が今の時代は求められているのである。
 これらをふまえ、「命を守ること」と「保育の質を高めること」をすすめていくのに各園の具体的な課題は何であるか、そのためにどう取り組んでいくのか、というテーマのもとでグループ討議が行われた。
 難しいテーマであったが、それぞれ抱える課題を発表し、参考になる意見や助言を聞くことができ有意義な時間となった。この討議した内容を各園に持ち帰り、安全保育について、また子どもの育ちについて、園全体の課題として是非取り組んでほしいと願う。


参加者の感想から

講演では外遊びの大切さがよくわかり、また遊びの持つ力を知ることができた。子どものやってみたい気持ちを大切に、遊びを通して育つのを待てる保育を目指したい。グループ討議では経験豊かな先生方と話ができて、普段気づけないことにも気づくことができ、とても勉強になった。噛みつきの原因など具体的な話もでき良かった。

子どもにとって何が必要か、大人は子どもの育ちに何ができるかがよくわかりました。子どもの育ちに環境作りの大切さを学びました。また子どもの脳のつくり過程が生涯に繋がっていると聞いて乳幼児の成長がいかに大事か理解することが出来ました。

冒険遊び場の天野氏の話は遊びの真髄ではないかと! 保育という枠の中で、どれだけ枠を崩せるのか、また保育の中で子どもの育ちをどう支えていけるかというのが、今井先生のお話と繋がって学べたと感じています。今! 子どもの育ちが本当に危ういのだと!